20250217 73

美を所有する。

かつて、全国の美術館やギャラリーを巡った。
しかし、いつからか、目に止まる作品しか見なくなった。
展示空間に漂うあの清潔で無菌的な空気。
白い箱は、美の棺だ。

絵画も彫刻も、勉強として見ることはできる。けれど、そこに“実感”はない。
ガラス越しに見る億単位の美。
手に取れず、触れられず、共に過ごせない──それでは、美は永遠に他人のものだ。

だからこそ思う。
美を語るには、所有しなければならない。
生活に取り入れ、命を賭して共に過ごすことでしか、美の深部には届かない。

それは、自分の美意識が「正しいかどうか」を、自分自身の直感で証明するということ。
画集も、美術館も、所詮はその手前にすぎない。
それらを否定するのではない。けれど、
真実は、所有することでしか開かれない。

時に、ホンモノの作家たちと交わした、何気ない時間の方が真実だったりする。
彼らの純粋さは驚くほど“普通”で、まっすぐだ。
美は特別なものじゃない。ただ、真っ直ぐに、生活の中にある。
それに気づけるかどうか。
その差だけだ。

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