仲田さん 2

美の懐(ふところ)前編

美の「価格」は、欲する者の数で決まる。
希少性、流行、話題性──いずれも美を貨幣価値に変える要素だ。
だが、それはあくまで表層の評価でしかない。

本当の美には、その価値を受け入れる「懐(ふところ)」がある。
懐が浅ければ、どんなに話題になっても、それは一過性のブームで終わる。
だが、物と直に向き合っているとわかる。「これは懐が深い」と。

それは、身銭を切って美を買った者にしかわからない。
歴史を手にしなければ、絶対に理解できない。

逆に言えば、文化とは金を出さなければ理解できないものだ。
美をつくるのは天才ではない。「時間」だ。
人は、美に宿る「時間」を見る。そして、その時間を買う。

だが、美をつくる者──作家には金がない。
だからこそ、自らの命を削って時間を刻み、作品に挑む。

その時間は、時に買われ、時に見過ごされ、
時に歴史に呑まれる。

作家が死ねば、ほとんどの作品は価値を失う。
歴史に挑んでも、たいていは消える。
では、消えない命とは、なんだろう。

それは、作家にはわからない。
だが、金を出して美を買う者──
その「懐」の深さにこそ、答えがあるのかもしれない。

お買い物カゴ